「ほらほら見ろよ!な!?言っただろ!?こいつは化物なんだよ!」
ようやく浮上した意識、ようやく回復した聴覚が拾ったのは、下卑た笑いとそんな言葉だった。その声には覚えがあり、あれ?誰の声だっけ?と、俺は記憶を探ったが・・・すぐには思いだせなかった。
霞む視界とぼけた頭で周りを見る。
俺の視界に広がるのは赤い液体で、俺の体は倒れていた。
顔をあげると、俺を見降ろし表情を硬くしたスザクが傍に立っていた。その瞳は揺れていて、信じられないものを見たと訴えていた。
「あの時間違いなく殺したのに、いるんだもんな。びっくりしたぜ」
笑う男の声に視線を向けるとそこにはガラの悪い男たちが数名立っていた。ああそうだ、俺はこいつの顔に覚えがある。数ヶ月前俺を騙して殺した物取りだ。比較的安全な街でお金を稼いでいた時に、親しげに近づいてきて意気投合。気を許したのが間違いで、穴場の酒場があると聞かされホイホイついて行ったのが運のつき。まあ、ナイフで胸を一突き&首をかき切られ、金目のものだけ取られて終わったから、荷物もほぼ無事、パスポートも無事、緊急用に靴下に隠していたお金も無事で、意識が戻ったら即その場を離れた。
「まさか本当に化物だとはな・・・」
「ああ、でも見ろよ、動いてるぜ」
起き上がろうとするがまだ力が入らない。
「何だよこいつ、何で死なないんだよ気持ち悪い」
銃をこちらに向けた男たちが顔をゆがめながら言った。その瞳はゴミを見るような冷たい物で、地面に倒れている俺を人として見ていない事だけは解った。傍で茫然とたたずむスザクの表情と、赤い血と、銃と、こいつらの言葉で、ああ、俺は撃たれて今死んだんだ。そして人の見ている前で生き返ったんだなと悟った。
頭がずきずき痛むし、顔が濡れているから頭を撃たれたのだろう。損傷した脳が再生し、徐々に現状を理解していく。
そうだ、俺は今は大きい町に来ていたんだ。町に着くなりルルーシュが大きな国立図書館に入りたいとうるさくて。図書館なら安全だろうし、中にいてもつまらないからと、俺とスザクは先に宿を探しあるいていた。すると安い宿があると声をかけられ、これは正規の宿じゃないなと思いながらも一応見てみるかと足を運んだのがこの場所で。図書館から徒歩30分ほど離れただけだというのに、寂れて人通りがほとんどない所だった。そこにあった家の部屋を確認していた時に俺は撃たれたわけだ。成程、あんまり家具も無かったから、最初から俺を殺すつもりでここに誘っていたんだと理解する。
俺はこうなったら隠す事も出来ないと腹をくくり、痛む頭を押さえ、ふらつきながら立ち上った。ゆらりと立ち上る俺は相当不気味だったらしく、男たちの顔は気色の悪い物を見たように歪んだ。
隣に立っていたスザクに視線を向けると、こちらも青ざめた顔で驚き硬直し、今起きた事を理解しきれない顔をしていた。立ち上った俺から一歩離れたスザクは、俺の全身に視線を巡らせる。
「リヴァル、君は・・・」
その瞳は今まで俺に向けていたものではなく、何かを探るような視線で、ああ、そんな目で見ないでくれと心の中で懇願した。今はまだ頭が理解しないのだろうが、やがてあいつらのように化物を見るような目で俺を見る事になるだろう。スザクとルルーシュにそんな目で見られる事を考えただけで泣きそうになる。
「おう、そこの東洋人。お前も化物なのか?」
にやりと笑う男に銃口を向けられたスザクはびくりと肩を震わせた。
やばい、スザクが撃たれる。
こいつを死なせるわけにはいかない。
俺は瞬時にこの部屋の間取りを頭に思い浮かべた。出入口は連中にふさがれているが、なんて事は無い。俺たちの背後には窓がある。怪我なんて気にせず突っ込めば、そこから逃げることは可能だろう。俺がすべきことは決まったと腹をくくる。
「・・・残・・念、だが、こいつは、俺の非常食だよ。俺の食糧は人間でね」
俺の言葉に、銃口は再びこちらを向き、スザクは驚愕の眼差しで俺を見た。そりゃそうだろう、自分を殺して食べるつもりだって言われたんだから。モンスターを扱った映画では大抵人間を食う描写がある。だから俺の言葉を男たちは即座に理解したらしい。痛みで頭がおかしくなりそうだが、俺はどうにか顔に醜悪な笑みを浮かべる事が出来た。
「その言葉を俺が信じると?」
銃を向けた男が強張った笑みを浮かべながら言った。
不死者なんて、化物なんて怖くないのだと虚勢を張った笑み。
「何躊躇ってんだ?こいつを殺したければ殺せばいいだろ?人間はまた調達すればいいから、俺は構わないぜ?んじゃ、俺は失礼するよ」
そう言って俺はポケットに隠し持っていた物のスイッチを押した。
それは護身用に用意していた煙幕で、スイッチを押した瞬間に煙が噴射し視界が効かなくなるはずだった。だが、俺よりスザクの方が反応が早く、煙幕を張るはずだったその道具は、スザクが蹴り飛ばし、背後のガラスを割って窓の外に落ちていった。一瞬遅れて噴き出した煙幕は窓の外を白く染め上げていた。次の瞬間に鳴り響いたのは銃声で、俺は両足に焼けるような痛みを感じた。
「すざ、く」
銃声は横から。
撃ったのはスザク。
その顔には感情がなく、崩れ落ちる俺を冷たく見降ろしていた。
新たな銃声とともに、俺は意識を失った。
男の凶弾は再びリヴァルの頭を討ち抜いた。
なかなか腕がいい。人を殺すことにも、頭を狙うことにも慣れている。
両足を討たれバランスを崩していたリヴァルの体はそのまま床に崩れ落ちた。
「あぶねーな。東洋人よくやった」
先ほどまで光が宿っていた瞳は一瞬で死者の瞳に変わり、赤い血が床に更なる血だまりを作りだす。僕が撃った銃弾は彼の両足を討ち抜いており、こちらからもとめどなく血が流れ出ていた。
「君達は、どうして彼が化物だと?」
素朴な疑問だ。
彼らはリヴァルが生き返る前提でここに誘い出し殺したのだから、何かしら理由があったはずだった。
「俺はこいつの死体を見た事がある」
男は近づいてきて靴の先でリヴァルの頭を小突いた。
成程、死んだ人間が動きまわっているから、という理由か。
ここまでの一連の流れで考えれば、いつどこで、どんな状況で死体を目にしたのかは想像がつく。
「さっきはすぐ生き返ったのに、今度はうごかねーな。連続で殺すと時間かかるのか?まあいいか、そのうち生き返るだろ」
リヴァルの体はピクリとも動かない。
だが、先ほどは間違いなく・・・生き返っていた。
頭を撃ち抜かれても死なずに、生き返り立ち上った。本人はそれに動揺することなく受け入れていたのだから、死に慣れているように見えた。
「おい、あっちもかなり前に仕留めたらしいが、まだ生き返らないって言ってるぞ」
携帯で仲間に連絡をしていた男が言った。
「あー?じゃあ、こいつ1匹だけ化物だったってことか」
「・・・あっちって?」
僕の疑問に、男は笑いながら答えた。
「お前らの連れに決まってんだろ?でもただの人間だったらしいな」
にたにたと笑う男の言葉で、ルルーシュが殺された事を知った。
化物が3匹なのか、あるいは1匹と人間二人なのか。それを確認する簡単な方法は、全員を一度殺す事だ。だから、ルルーシュも殺された。
「はぁ?それまじかよ?うわ、もったいねー」
「なんだ?」
「いや、あっちのコートの男、すげー美人だったらしい。高値で売れるレベルだったらしいぞ」
殺す前に顔を見ておけよ!と、男の一人がぼやいていた。
「そりゃもったいなかったな。でも金はこの化物だけで充分だろ」
そう言って男は僕に銃口を向けた。
「僕も殺すのか?」
「目撃者だからな。いらない情報も知られたし、何より化物の可能性がある」
味方に引き入れた場合は取り分が減ってしまうし、そんな事をする理由も無い。
「でも、こいつも売れば金になるぜ?」
「あんなけりが出来る奴だぞ?逃げられたら終わりだ。欲を出して足元をすくわれたら終わりだからな」
接近戦で勝てる相手ではない。
だから男たちは迷わず引き金を引いた。